「話したい」と思うから英語が話せるようになる
英語を話せるようになるための非常に大事なポイントの一つは「話したい」事を話すことです。逆に話したいことなないのに無理やり話そうとするのはエネルギーの無駄使いになります。
そもそも英語でも日本語でも「話す」というプロセスには結構なエネルギーが必要です。そのため自分で「話したい」と思うことや「話さなければならない」ということのない人にとっては、英語を話すことはただの運動です。
「話したい」という思いがない場合はまず「何を話したい」かを考えるエネルギーが必要です。これには話すことよりもエネルギーが必要になります。無か有を生み出すような労力が必要だからです。例えるなら全く興味の湧かない本についての読書感想文を書くようなものです。
とはいうものの、たとえ「話したい」ことがなくても英語を話す練習は必要です。ここでさらに別の問題が発生します。仮にテキストなどで強制的に話す内容が決められていても、自分の気持ちとは違うということです。自分の気持ちに反して話すときにはまた別のエネルギーが必要になります。なぜなら自分の気持ちと違うというのはつまり「嘘」を話すことだからです。普通の人であれば嘘をつくのは疲れるはずです。
それではどうやって話す練習をしたらよいのか。対策は練習するときの教材と自分の気持ちが同じ方向に向くようにすることです。それには自分の考え方に近い教材を選ぶか、あるいは教材に自分の気持ちを近づけるしかありません。おそらく両方をうまく組み合わせてやる方法が現実的です。
英語における語彙力の麻薬的中毒性
英語において語彙力が最重要であるという人は結構います。それはあるレベルまでは正しいですが、あるレベル以降は正しくありません。このことを理解せずに語彙の習得に注力してしまうと英語学習に「嵌まる」可能性があります。
そもそも語彙というのは麻薬のようのものです。どれだけ覚えてもそれで満足ということがありませんし、語彙を覚えると気持ちよくはなりますが実際に気持ちのよいのは覚えた語彙を使うほんの一瞬です。だから語彙習得はほどほどにして控えた方が身のためだといえます。
語彙習得に嵌まってしまう原因として「語彙は覚えれば覚えるほど覚えやすくなる」という性質があります。すでに知っている語彙と関連付けて覚えることができるので知識として定着しやすくなるからです。これは非常に中毒性が高いといえます。
また語彙力は目に見えやすいという特徴があります。語彙は知っているか知らないかの世界のため語彙力を調べたりテストしたりすることは簡単にできます。そうやって目に見えるようになると人はますますやる気をだしてしまいます。
ただ、実際に覚えた語彙を使う機会があるかというと話は別です。必死に覚えた語彙のほとんどは「一生」使わないことすらあります。毎日英語の文献や雑誌またはネットの記事などを読み漁っている人でなければよく出会う語彙は限られます。(5000語くらい)
最後に忘れられがちな問題は、語彙習得に嵌まるとそれ以外の英語の勉強やトレーニングの時間が無くなってしまうというものです。良かれと思って語彙を増やしていても、それを使う機会がないどころか、それ以外の勉強も停滞してしまうという悲しい結果になります。そうならないためにも語彙習得は明確な目標を持ってほどほどに取り組む必要があります。
小学生相手にもわかるように英語を話すこと
TOEICで900点くらい取れる人であってもネイティブからするとせいぜい小学生のレベルです。そのためスピーキングでも小学生レベルの言語力で表現できるように工夫しなければ英語を話すことはできません。たとえば長く難しいことをそのまま言おうとするのではなく短くシンプルな言い方にすると英語を話しやすくなります。
「小学生レベルの言語力」で表現するといってもどれくらいかイメージできない人は、日本語で小学生を相手に話すレベルだと思ってください。日本語でも小学生相手に長い文や難しい表現は使わないはずです。それでも伝えたい内容が難しい時は、日本語を短くシンプルな表現にするはずです。
「小学生レベルの言語力」では言いたいを伝えられないと考える人は池上彰さんを想像して下さい。彼は誰にでもわかりやすい言葉で難しいことを説明しています。ちなみに彼のわかりやすい話し方はNHKの子供向けのニュース番組を担当していたときに磨かれたものです。限られた語彙や表現であっても難しいニュースをわかりやすく説明することは可能です。
子どもが親の都合などで海外に行くと比較的早く英語を話せるようになるというのは彼らがそもそも「小学生レベルの思考力」だからです。小学生レベルの思考であれば小学生レベルの英語力でも十分に表現できます。
大人でもそれをうまく変えるタイプの人がいます。それは普段小学生を相手にしている小学校の先生などです。私の生徒に教員志望の学生がいました。彼女は小学生に対していわかりやすく説明することを心がけていることもあり、英語を話すときも意識せずにそれができていました。またこの点についてはスティーブ・ソレイシィ先生も同様のことを仰っています。
ほとんどの人にとって英語をネイティブの大人のように話すことは困難です。せいぜいネイティブの子どもの語彙や表現で話すしかありません。それでも工夫すれば十分に言いたいことを伝えることはできます。このことを常に意識してスピーキングの練習に取り組めば英語を話せるようになることはそれほど難しくなくなります。
レベル99の英語のアドバイス
英語教育ビジネスではレベル1の人に対してレベル99のアドバイスをするようなものがたくさんあるので注意が必要です。
そもそも日本で英語を学びたいと思う人の大半はレベル1~レベル10くらいです。中学校の英語の知識をほとんど忘れてしまったか、あるいはなんとなくしか覚えていない人たちです。受験勉強で必死に英語を勉強していた人たたちですら、それから何年も経てばだいたい忘れてしまいます。
このようなレベルの人たちに最高レベルのアドバイスがされているのが現状です。たとえば次のようなものです。
・ネイティブはそんな言い方をしない。
・国際会議ではそんなレベルでは通用しない。
・そんな言い方はダサい。
などです。このようなアドバイスはかなりレベルが上がっている人にすればいいもので、レベルの低い人にとっては意識をする必要すらありません。またレベルが中くらい(中級者)でもほとんど無視していいようなものです。
このようなアドバイスは役に立たないどころか初級者には害にすらなります。せっかくじっくりと基礎を固める時間を基礎固めには何の関係もないことに時間を費やしてしまうからです。
初級者がこのようなアドバイスに引っかかってしまうのは、このようなアドバイスがレベルの高い人がするからです。しかもレベルの高い人は悪気があってしてるわけではありませんので、レベルの低い人もそれが本当だと信じてしまいます。
これは本当はスライムの倒し方を知りたい人に、ラスボスの倒し方をアドバイスしているような悲劇です。
「ネイティブだけしか使わない表現」のデメリット
「ネイティブだけしか使わない表現」に手を出さなければ英語の勉強範囲をぎゅっと絞ることができます。ここに手を出してしまうと表現は無限にあるため成果はいつまでも上がりません。
そもそもネイティブ以外の人はそれほど難しい表現は知りませんし使えません。つまり「ネイティブ以外も使う表現」というのは基本的な表現です。逆にいうと「ネイティブだけしか使わない表現」というのは基本から外れる表現です。
「ネイティブだけしか使わない表現」には大きく3つのデメリットがあります。
・難しいので覚えづらい
・難しいので使っても相手に通じない
・大量にあって勉強範囲を絞れない
このようにデメリットはありますが、メリットもないわけではありません。
・英語が上手だと思われる
・ネイティブ同士の会話についていける
・微妙なニュアンスの違いがわかる
このようなメリットが必要かどうかは置いておき、メリットを活かしたいなら「ネイティブ以外も使う表現(=基本)」をできることが大前提です。基本ができていないのにいきなり応用や例外をやろうとすれば失敗することは目に見えています。
だからまずは「ネイティブだけしか使わない表現」には手を出さずに「ネイティブ以外も使う表現(=基本)」に絞って勉強することが一番の近道です。
リスニングの音とスピード
「英語の発音を認識できること」と「速い英語を理解できること」はまったく別次元の問題です。「発音の認識」には質重視のトレーニングが必要で、「理解のスピード」には量重視のトレーニングが必要です。この2つをごちゃ混ぜにしているといつまでもリスニングは上達しません。
ごちゃ混ぜのトレーニングとして真っ先に思いつくのは、子どものようにとにかく大量の英語を浴びるという方法です。残念ながら大量の英語を聞きまくったとしてもリスニングはほとんど上達しません。試しにほかの知らない外国語でやってみるとよくわかります。
まずリスニングの大前提として聞いて理解できる内容はリーディングで読んで理解できる内容だけだということです。外国語として文字から英語の勉強を始めた人たちはそれが良いか悪いかは置いておいて、ほぼリーディングがベースになっています。
そしてリスニングとリーディングの違いは「音」があることとと「スピード」が速いことです。言いかえるとリーディングができる人がリスニングができるようになるためにはこの「音」と「スピード」に対応しなければなりません。
まず「音」への対応というのは英語の発音を認識できることです。発音を耳で認識できるかどうかがポイントです。認識できるというのはその音を説明したり区別したりすることができることです。ここではスピードは関係ありません。ものすごくゆっくり発音された英語を聞いてどのような英語が発音されたかがわかればOKです。
次に「スピード」への対応というのは英語が話されるスピードでその意味を理解できることです。ゆっくりだと理解できるけれども、速いと理解できないというのは「スピード」に対応できていない状態です。
リスニングを苦手とする人はたいてい「音」と「スピード」の両方に苦手意識があると思います。であればこそそれぞれに対して対策を打つ必要があります。
「音」へ対応するためにはコツコツと聞こえる音を増やしてゆく必要があります。発音記号を理解したり、耳から聞こえる音を文として目で確認したりという質を重視したトレーニングが必要です。
一方「スピード」へ対応するためにはある程度の量のトレーニングをこなす必要があります。「スピード」は言ってみれば脳の処理速度です。脳の処理速度を上げるためには繰り返しのトレーニングが必要です。
このようにリスニングといっても「音」と「スピード」のどちらを鍛えるかでトレーニング方法は変わってきます。それを一つにするとどちらを鍛えているか分からなくなります。下手をすると「認識できない音を理解できないスピードで」必死に聞こうとしているだけかもしれません。
怖いことに巷にある英語のリスニング教材は「認識できない音を理解できないスピード」で話されるものがほとんどです。「音」か「スピード」のどちらを鍛えるのか自分ではっきり目的意識を持っていないと、そういう教材を聞き流すだけになってしまいます。
学校で英語を話せるようになるには
学校の家庭科の授業だけで料理ができるようになる人はいないと思います。同じように学校の英語の授業だけで英語が話せるようにはなりません。今のところ学校の授業は英語を「勉強」するところであって英語を「練習」するところではないからです。
それなら「学校の授業で英語の勉強と練習をさせればいいじゃないか」という意見を平気でいう人たちは少なくありません。しかしそれはかなり無茶苦茶な意見です。その理由は3つあります。
「勉強」していない内容を「練習」することはできません。
「練習」を増やすと「勉強」の時間がなくなります。
「勉強」と「練習」では授業の方法は違うため同時にやれません。
それでも学校で「勉強」と「練習」をすることにこだわるのであれば、通常の「勉強」する授業とは別に「練習」のする時間を作るしかありません。すでに1時限目から6時限目はいっぱいなはずなのでそれ以外で使えそうな時間を使うしかありません。
・朝の0時限目または夕方の7時限目(毎日)
・放課後の部活動の時間(毎日)
・夏休み・冬休み(集中授業)
これらの貴重な時間から最低100時間くらいの練習時間を捻出する必要があります。公立の学校では実現性は低いですが、私立であれば実施してくれる学校もあると思います。
最後に一つ忘れてはいけない注意点は子どもの負担です。下手をすると英語の勉強や他の科目の勉強にも悪影響を与えかねません。部活動に力を入れ過ぎると勉強がおろそかになるようなものです。そうならないようにサポートするためにも子ども本人だけでなく親も覚悟が必要です。